促されるようにして事の顛末を自分の中で整理しながらも話した。彼らが物語の中の人物だという事を除き、が全く別の世界から来たこと。この時代が、自分が居た時代の過去と酷似していること。似ているが、些細な点で違いがあり、それがここが自分が居た世界とは別の場所だと思ったこと。言葉が足らず、ちぐはぐな説明。話しながらも何とも纏まりのない話しだと感じながらも話せることは全て話した。


「全く別の世界から、か」
兵助の呟きには頷く。恐らく独り言だったのだが、二人の反応を気にしていたには彼らの言葉に過敏になっており知らず知らずに首を振っていた。
全てを抱え込んでいた先ほどを思えば負担は話した分だけ減った。しかし、それは同時にリスクを負うことにもなった。
「ぼく・・・、」
難しい顔をした兵助の隣で伊助がを見上げた。自分よりも年下を相手にしながらもその後に続く言葉に怯えてびくりと肩が揺れた。
「ぼくは信じます。さんが言ったこと」
「伊助」
「だって、さんが嘘言ってるようには思えないんです」
真っ直ぐではっきりと意思を示した瞳。まだ10歳という周りには甘えてばかりの年齢で、その容姿もの弟よりもずっと幼い。なのにには伊助が弟よりも頼もしく見えた。迷うことなく告げたその言葉がどれだけを救ってくれたか。
「伊助、君・・・っありがと・・・・・・!」
思わず小さなその体を抱きしめた。自分の腕の中にすっぽり収まる伊助が驚いていることなど気にもとめず。

触れた温もりが温かかった。
それは生きている証だ。
伊助もそして自分自身も。
確かめるようにぎゅっと強く抱きしめてから、ゆっくりとその体を離す。

「ごめんね、いきなり」
「いいえ」
唐突な行為にも伊助がにっこり笑い返してくれるからにも笑顔が浮かぶ。ずっと泣きそうだった顔がようやく笑ったことにホッとしながら伊助が兵助を見上げた。
「久々知先輩」
一連の出来事を見ていた兵助に訴えかけるような視線。それに兵助は苦笑する。
顔に出ている態度に兵助はその頭を撫でた。
「分かった、分かったよ」
「あの」
「俺も信じます。貴方が言ったこと」
「・・・え?」
「信じがたい話ですし、信じられない部分もあります。けど嘘を言っているようには思えません」
起こった出来事を一つ一つ、まるで自分自身でも確かめるかのように説明していた。順序立てた説明など出来なかったのだろう。話は飛んでは戻り、また続いて、それでも分かってもらえるようにと必死に話せることを全て話してくれた。
「どんなにありえない話しでもそれが事実だと言うのなら、俺は信じますよ」

泣きそうになって俯く。
誰かに信じてもらうことがこんなにも嬉しいことだなんて思いもしなかった。
「・・・・・・・・・っ」
さん?」
駆け寄った伊助の声がする。は涙を堪えながらゆっくり顔をあげた。心配する伊助に笑みを浮かべて、それから伊助よりも分かりにくいが自分を気遣ってくれている兵助を見上げる。
「ありがとう、ございます・・・」
声が掠れていて、もう一度呟く。
「信じてくれて、ありがとう」
それだけでも十分だと思えるほど。二人の言葉は嬉しかった。




「それで、これからどうしましょうか」
伊助が兵助に聞く。
「異世界から来たってことは帰る場所も知り合いも居ませんよね?」
こくりと頷きながらも困り果てた顔になる。ここが何処なのかも分からなければ、生きていく術すら分からない。今年で16歳になるだが、この未知なる世界ではこれまでに培ってきた知識等はまるで役には立たないだろう。日本史で学んだ事が僅かに生かせれる程度か。
どこかの町まで案内してもらったとしても、何が出来るだろうか。怪しい自分に仕事を与えてくれるような人間がいるとは思えないし、第一この世界での仕事をが上手にこなすなど難しいだろう。
高校に入学してからファミリーレストランに休日限定でバイトはしていたが、その経験が活かせるとは到底思えなかった。厨房でのバイトならともかく、はホールで接客として動き回っていることが常だった。接客技術は身についてはいるが、ファミレスとこの時代に存在する茶屋などでの接客とでは極端に違っているだろう。
仕事にありつけなければお金が入ってこない。お金がなければ食にもありつけない。おまけに身を寄せる場所もない。何より、いきなり来たばかりの場所にたった一人。上手く溶け込む自信などなかった。

「とりあえず学園に行きましょう」
「・・・学園?」
兵助に聞き返しながら、はぼんやりと忍術学園を思い出す。
「そうです。先ほど伊助が言っていたと思いますけど、俺も伊助も忍術学園の生徒なんです」
「先輩、学園に戻って何か案でもあるんですか?」
「俺達はまだ半人前の生徒です。貴方の話を聞いてあげることは出来ますが、それ以上は俺達ではどうしようもないんです」
申し訳なさそうな顔の兵助には大きく首を横に振った。信じるとは言ってくれたが、それでも疑わしい人間相手にそこまで親身になってくれただけでも十分過ぎるほどなのだ。
「だから学園長先生に相談しようと思います」
「えー!学園長ですか?」
伊助が大きな声をあげる。何か思うところがあるのか、大丈夫ですか?と聞きたそうな顔をしている。兵助がそれに応えるように頷いた。
「面白そうなことには人一倍関心がある方だからきっと力になってくれるだろう」
「あ、そっかぁ。・・・・・・でも先輩、」
「ん?どうかしたか?」
兵助の言うとおりだ。言うとおりなのだが、何だかその答えはあまり説得力がないような気がした。伊助は首を傾げる兵助からへと視線を移す。伊助は学園長の性格を知っている。だから兵助の言い分には納得出来るし、学園長ならに興味を持って何とかしてくれるかもしれないとも思う。だが、学園長がどんな人物かを知らないには兵助の言葉じゃ伝わらないだろう。


案の定、そこには面白そうなんだ、と引き攣った笑みで呟くの姿があった。




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2008,12,15



伊助は兵助を慕ってるけどその天然っぷりにたまーに振り回されてると良い。