「(焔硝蔵焔硝蔵・・・焔硝蔵はっと・・・)」 先日、鉢屋三郎に教えてもらった焔硝蔵への道をは歩いていた。今朝、食堂で会った伊助が「今日は火薬委員会があるんですよ」と話していたことを思い出し、場所を覚える良い切欠にもなると思い覗いてみることにしたのだ。 火薬委員会のことは伊助が教えてくれていたので大体知っていた。何でも六年生が居ないので五年生の兵助が委員長代理をしていて委員は兵助を含めて全員で四人とか。五年生の兵助に一年生の伊助、それから二年生の三郎次と四年生のタカ丸。そして顧問が一年は組の担任でもある土井半助。 三郎次、タカ丸とは食堂で顔を合わせた程度でちゃんと会話をしたことはない。一年から六年までの忍たま全員の顔はさすがにまだ覚えきれないだったが、この二人は自己紹介された時、即座に脳にインプットされた。それは他ならぬ伊助のおかげだ。をこの学園に連れてきてくれた伊助と兵助の接点が同じ委員会――つまりは火薬委員会だと知り、それ以降まだ見ぬ残りの火薬委員の存在はずっと気になっていたのだ。 池田三郎次と斎藤タカ丸。 伊助から教えてもらったその二人の名前にはもちろん聞き覚えがあったのだが、やはりと言うべきなのかの記憶にはその姿までは残っていなかった。所詮は夕食を作っている合間に観賞していた程度なので、記憶に残っていないのはしょうがない。 「ここ、だよね・・・」 誰に確かめるわけでもなくそう呟く。学園の母屋からは少し離れた位置にある焔硝蔵は火薬を管理している場所だけあって、周りに他の建物は見当たらない。孤立しているのは万が一、蔵に火がついてしまった時に生徒達が過ごす母屋へとすぐに燃え移らないようにと考えて建てられたから、らしい。 その所為なのか、とても静かだった。日中騒がしい忍術学園でここまで静かなのも珍しい。当然この辺りに近づいたことのないは物珍しそうに辺りをみまわす。 近くには兵助や伊助達の姿は見当たらなかった。しかし、よくよく見れば焔硝蔵の入口が僅かばかりだが開いている。きっと中にいる。そう思ったは蔵へと近づく。次第に焔硝蔵の中から篭ったような声が聞こえてきた。開いた入口の隙間からは中をこっそりと覗く。薄暗くどこか涼しげな空気が漂っている蔵の中で扉に近い位置に人がいるのに気付いた。 「タカ丸さん、その数間違ってます」 「ええ、本当?!ごめんねー三郎次君」 「しっかりしてくださいよ」 二年の三郎次と四年のタカ丸だ。伊助と兵助でないのなら必然と残りの二人になってくるし、何よりタカ丸のあの金色の髪は彩度を落としてこそいるがよく目立っていた。兵助と伊助はどこにいるんだろう。蔵の中を目を凝らしてじっと見つめていたはふとこちらを見たタカ丸と目が合った。 「ちゃんだー」 「え?・・・ってタカ丸さん!」 呼ばれた名前に覗き見をしていたはびくりとしてその身を引っ込める。驚いて早くなった鼓動を沈めるように深呼吸をしていたら入口からひょこっと金色の髪が覗いた。 「やっぱりちゃんだ」 「斎藤君」 「あ、もう名前覚えてくれたんだね」 それはもうすぐにでも覚えました。とは言えないのでは曖昧に笑って誤魔化す。タカ丸の場合、彼が火薬委員会のメンバーでなくともすぐに覚えていたとは思う。他の生徒とは違うその髪色はインパクトとしては抜群だ。 「さん!」 蔵の中から伊助が顔を出す。 それに続いて少しむすっとした顔の三郎次が現れたかと思えばそのままタカ丸をジト目で睨み上げた。 「タカ丸さん、勝手に仕事を放棄してないでください」 「ごめーん三郎次君・・・つい」 「つい、じゃないですよ」 「三郎次の言うとおりだぞ。もう少し責任を持って仕事してくれ」 そして一番最後に兵助が顔を見せた。呆れた顔でタカ丸を窘める。 それから不思議そうにを見た。 「さん、どうかしましたか?」 「そうですよ。何か困った事でもあったんですか?」 次いで伊助が少し不安そうな顔でを見上げてくる。わざわざこんなところまで出向いた為に何かあったのかと思ってしまったらしい。いらぬ誤解を与えてしまったことに申し訳なく思いながらは首を振った。 「違うの。時間があったから学園内を覚えようと思って」 「ああ、それで」 「うん」 学園内を探索するなど、少し前までは絶対に有り得なかった。行動を制限されていたわけではないが、疑われている身というのを強く実感していたので大人しくしていた方がいいだろうと思っていたし、何より歩けば人目につくと思ったからだ。見知らぬ人の視線が怖くて、蔑んだような瞳を向けられると思うと足が竦んでしまう。けれど、それは完全にの勘違いであったことはここ数日を振り返れば分かる。すれ違えば笑って挨拶してくれる、困っていたら助けてくれる、遊びませんか?と誘ってくれる。一部とは互いに探り合っているような状態ではあるけれど、それだって以前と比べたら進歩している。学園長が「おぬしの行動次第じゃぞ」と言った正にその言葉の通りだった。 そう。私の行動次第―――。 「さん?」 「うぇ!?・・・あ、ごめん。なに?」 すっかり考え事をしていた。我に返って兵助を見る。 「折角なので紹介しておこうと思いまして。一応知ってるとは思うんですけど」 そう言って兵助は三郎じとタカ丸の二人を呼ぶ。 「二年生の池田三郎次と四年の斎藤タカ丸さんです。この二人に俺と伊助で火薬委員全員になります」 「よろしくねちゃん」 「・・・よろしくお願いします」 鷹揚とした笑みを浮かべるタカ丸とは対称的に三郎次はどこか遠慮がちの声を出す。それは食堂で会って、簡単な自己紹介をした時と同じだった。はそっと兵助を見た。 「不器用なんですよ三郎次は。そのうち普通に話せるようになりますから」 それとなくのそばにより、三郎次には聞こえないようにぼそぼそと告げられた言葉にそうなのか、と三郎次を盗み見る。そのの前にタカ丸がにゅ、と現れる。 「ちゃんはさ、兵助君と伊助に連れてこられたんだってね!」 「え?うん」 「あーあ、僕たちも実習がなければ一緒にさんを見つけてたのに」 「実習だったんですからしょうがないですよタカ丸さん」 「伊助はその場にいたからねぇ。三郎次君はそう思うでしょ?」 「俺は別に・・・」 かちりと合った目はふいっと逸らされる。そんな三郎次を見てタカ丸は笑う。 「素直じゃないね三郎次君は」 「っ! それよりも挨拶も終わったんですし仕事に戻りますよ!」 「えー!僕まだちゃんと話したいなぁ」 「仕事が最優先です。行きますよ」 年下の三郎次に引き摺られてタカ丸は焔硝蔵の中へと消えていく。委員会でのタカ丸の立場はどうやら一番下のようだ。今のやりとりを見ているだけで分かる。 「三郎次君すごい」 「三郎次はしっかりしてますからね。それに俺の次にこの仕事には詳しいですし」 「タカ丸さんは編入生で火薬委員会に入ってまだ日が浅いんです」 途中から学園に入ることになった生徒、それが斎藤タカ丸というわけだ。はぼんやりそんな話もあったかなぁと首を傾げる。 「さて、じゃあ俺らもそろそろ仕事に戻るか」 「はい!さんはどうしますか?」 「私も戻ろうかな。場所も覚えたし。仕事中断させちゃってごめん」 これ以上留まる理由はないし、がここに居ると彼らの仕事は進まない。 「それじゃあ」 「はーい!さん、またあとで!」 「うん」 伊助と兵助が蔵の中に入っていくのを少し見つめて、それからも踵を返す。 その帰り道に学園長が言った言葉をもう一度思い出す。 「・・・私の、行動次第・・・・・・」 BACK : TOP : NEXT 2009,07,22 |